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徳島地方裁判所 昭和46年(わ)19号 判決

主文

昭和四六年二月二三日付起訴状(昭和四六年(わ)第一九号)記載公訴事実中第一の一、二の背任の点については、いずれも公訴を棄却する。

理由

第一、一、起訴状記載の公訴事実

昭和四六年二月二三日付起訴状でもつて公訴が提起された背任罪の各公訴事実は、別紙(一)「起訴状記載の公訴事実」のとおりである。

二、ところで、訴因は特別構成要件に該当する具体的事実の主張であるが、この訴因は一方では審判の対象を明らかにする意味で他の訴因との異同を判断するに足る程度に、また他方では、被告人の防禦に支障を及ぼさない程度に具体的に記載されなければならない。しかるに、主文掲記の起訴状記載の本件各背任罪の訴因(以下単に本件訴因という)は右の点につき重大な欠陥を有しているものといわざるをえない。即ち、本件訴因のうち、背任行為および財産上の損害の点は、「国府町農事放送農業協同組合所有の普通預金から計二〇〇万円を引き出し」「国府町農業協同組合所有の普通預金から六〇〇万円を引き出し」それぞれこれらを「徳島相互銀行石井支店において通知預金として預け入れ」「もつて前記各組合にそれぞれ財産上の損害を負わしめ」たというのであり、右の国府町農事放送農業協同組合ならびに国府町農業協同組合(以下単に本件各組合という)所有の普通預金から合計八〇〇万円を引き出し徳島相互銀行石井支店に通知預金として預けかえたことが背任行為に該当するというにある。しかしながら、本件訴因の構成が右のように、典型的な背任罪の類型とは異なる特異な類型のものであるうえ、普通預金を引き出した先の金融機関は、本件訴因の記載から判断すると国府町農業協同組合のように解されるのであるが、もしそうだとするならば、六〇〇万円の分については国府町農業協同組合がその資金を自己に対し普通預金していたことに帰し不合理であるので、結局本件各組合以外の金融機関に対し普通預金をしてあつたものであろうと推測する外ないところ、その金融機関が本件訴因中に明示されておらず、また各通知預金の名義人も本件訴因中に記載されていないため、任務違背の点については、起訴状の冒頭部分に被告人の本件各組合の組合長としての任務が抽象的に記載されてはいるものの、必ずしも十分明らかであるとはいいがたいし、また、財産上の損害の点についても、なるほど「もつて前記各組合にそれぞれ財産上の損害を負わしめ」と記載されてはいるものの、右は背任罪の特別構成要件(刑法二四七条)中の抽象的な文言そのままの記載、いわばしめくくりとしての用語であるにすぎず、具体的な事実の記載ではないため、起訴状記載の訴因の記載だけでは何故財産上の損害を本件各組合に加えたことになるのかが明らかでないものであつた。従つて、起訴状記載の訴因は、補正が不可能なほど具体性、特定性に欠けているとまではいいえないものの、その記載は審判の対象の特定の見地だけからみても十全なものではなく、まして被告人の防禦の点からは何を争点とすべきかについて全く不明であるといわざるを得ないので、検察官によつて具体的事実を主張するという方法で補正される必要があつた。そして本件は第一回公判以後本件訴因について、なかんづく財産上の損害の点に関する訴因の補正をめぐつて、極めて特異な経過をたどつたものであり、当裁判所が主文掲記の判決を言い渡すに至つた理由は、本件各公判の経過を概観することによつておのずと明かになるものと考える。よつて、以下、本件公判の経過を順次概観し、これに基づいて検討を加えることとする。

第二、一、第一回公判の経過

第一回公判(昭和四六年七月八日)においては、

裁判長は検察官に対し

右各背任罪の訴因中に「徳島相互銀行に通知預金として預け入れ」と記載されているが、右預け入れの名義人および右預け入れによる損害発生の事実

につき釈明を求め、検察官は、

第一の一の訴因の預け入れ名義人は国府町農事放送農業協同組合であり、第一の二の訴因のそれは国府町農業協同組合である。また、本件通知預金は被告人と親交のあつた梶本良典が事実上経営している「ニューオデオン商事」と称するパチンコ店の運営資金を徳島相互銀行石井支店から借り入れるため、右銀行側からの要求もあつて、被告人において右梶本が融資を受ける見返りとして同人のため右銀行へ通知預金したものであるところ、取引銀行以外の銀行には預金してはならないという定款があり、また議会の決議で取引銀行を指定しているのに、それに違反して、被告人が組合長をしている国府町農業協同組合、国府町農事放送農業協同組合が県信連に預けてある組合の資金を梶本が銀行融資を受ける見返りのため預金することは、右両組合の資金運用上の損害を与えたことになる。

旨釈明し、さらに

資金運用上の損害を与えたというが、通知預金は三日前に通知すれば返してもらえるので、三日間資金運用上の損害を与えたという趣旨か

との釈明に対し検察官は

本件預金は通知預金ではあるが、これは梶本が銀行から融資を受ける見返りとしての預金であるから、ある程度一定期間は引き出せない趣旨である。

旨釈明し、さらに裁判長から検察官に対し

引き出せないのは契約に基づくものか、それとも明示の契約はなされていなかつたのか

という求釈明があり、これに対し検察官は

何月何日まで引き出せないという明示の契約はないが、黙示の了解があつた。その事実は証拠調の段階で明らかにする。なお、右に述べたところは損害の範囲を説明したものであつて、検察官としては、徳島相互銀行石井支店へ通知預金したこと自体が損害を与えたと主張しているものである。

と釈明した。

また裁判長は検察官に対し

第一の二の訴因中の「国府町農業協同組合において、同農業協同組合所有の普通預金から六〇〇万円を引き出し」と記載されている部分はどういう趣旨であるか

と釈明を求めたところ検察官は

右組合に預金があればその都度右組合からその上部団体である県信連へ預金されるから、県信連へ預金してある右組合の普通預金を右組合で引出手続できるので、それを引き出して徳島相互銀行石井支店へ通知預金した趣旨である

と釈明した。

そこで、最後に裁判長は、検察官および弁護人に対し

検察官は右の釈明をもとにして、第一の一、二の訴因の記載、場合によつては訴因を変更するかどうかを検討され、その結果を書面で提出せられたい。弁護人はその余の釈明事項を書面で提出せられたい

と指示した。

二、右第一回公判期日において検察官がした釈明は、法的には訴因の補正のために行つたものと考えられるが、前記釈明によつて事実関係において附加される部分がかなりあり、かつその内容が複雑であるから、審判の対象を限定する必要があり、それが被告人の防禦に大きな影響を及ぼすものと認められるので、手続の慎重を期する意味で場合によつては訴因変更の手続によつて訴因の補正をなさしめるのが相当であるので、裁判長は検察官に対し、第一回公判の最後に、「訴因の記載、場合によつては訴因変更をするかどうかを検討され、その結果を書面で提出せられたい」と指示したものである(なお、裁判長は、後記のように、第四回公判では訴因変更請求を許可し、第五、六回の各公判では訴因変更の命令および指示をしているが、これらはいずれも右の趣旨で行つたものである)。

第三、第二回公判の経過

第二回公判(昭和四六年九月一四日)においては、

検察官は、昭和四六年九月一四日付釈明書に基づき

本件は

(イ)、「国府町農業協同組合および国府町農事放送農業協同組合の組合員外である梶本良典が、パチンコ遊技場「ニューオデオン商事」を支配しようとするために必要な資金を徳島相互銀行から借り受けるに際し、被告人らが右相互銀行に対し、右両組合の金員を見返り預金とする旨約定し」(起訴状記載の一、二の行為をし)

(ロ)、「もつて前記両組合の資金を右相互銀行に右各組合組合員の意思に反して各組合長名義で預金し、右両組合の正常な資金運用等を阻害して財産上の損害をあたえ」

たというものである

と釈明した。

他方、弁護人は、本件各背任罪の訴因について刑事訴訟法三三九条一項二号により公訴棄却を申し立て、その理由として、

検察官は、見返り預金をしたことにより預金者の正常な資金運用等を阻害したから、背任罪における損害が預金と同時に発生し、その時期において背任罪が既遂になると主張しているようである。右の「見返り」とは俗語であつて明確を欠くが、何れにしても質権など物権の設定がなされていないことは明らかである。ところで預金をしたことが損害を加えたことになるのは、徳島相互銀行に対して右預金を担保として提供し、これに現実に物権的権利が設定されたような場合でなければならず、単に債権契約(例えば、質権を例にとると、質権を設定するという債権契約)を結んだだけでは背任罪の損害を生じたということはできない。よつて起訴状に記載された事実が全部証拠上認定できるとしても背任罪にならない。よつて本件各背任罪の公訴は棄却さるべきである

と陳述した。これに対し検察官は

その理由がないものと思料する

と述べた。

最後に裁判長は

弁護人側において補足すべき事項および検察官において見解があれば書面で提出されたい

と指示した。

第四、第三回公判の経過

第三回公判(昭和四六年一一月一〇日)においては、

まず冒頭に検察官は昭和四六年一〇月一六日付「弁護人の公訴棄却申立に対する検察官の意見書」に基づき

そもそも、背任罪にいう「財産上の損害を加えた」とは、「すべての財産的価値の減少を意味し、ただに財産的損害を生ぜしめたる場合のみならず、実害発生の危険を生ぜしめたる場合をも指称するものとす」というのが夙に判例(大判昭和一三年一〇月二五日集一七、七三五、最決昭和三八年三月二八日集一七、二、一六六頁各参照)の示すところである。しかして本件についてみると、外部に現われた行為は預金場所の変更であつても、預け替え当時の組合の資金運用量と本件の預け替え金との金額の比較、当時の組合資金の需給状況、預け替えによる金利等の差異、預け替えをする約定内容等によつては優に背任行為となる場合のあるところである。弁護人は、検察官が「ヒモ」つき預金とか「見返り約定」とか言つても、それは物権的権利の設定をしたものではなく債権契約にすぎず、債権契約のみでは損害にならないと主張するが、債権契約から派生して損害発生に至ることのあるは容易に考えられるところであつて、弁護人の見解は失当である。よつて、弁護人の公訴棄却の申立は理由がなく、すみやかに棄却さるべきである。

と陳述した。これに対し弁護人は昭和四六年一〇月付「検察官に対する論駁書」に基づき

検察官援用の前記判例は、無担保の不良貸をすれば、貸金の回収不能をまつに及ばず、貸出の時点において背任罪にいわゆる財産上の損害はすでに発生しているという趣旨のものであつて、本件とは関係のない判例である。もし関係ありというのであれば、次のことにつき釈明を求めたい。

第一点 徳島相互銀行に対する預金は不良貸に準ずるのか。不良預金なのか。同銀行の預金払い戻し能力に危懼があるのか。端的にいえば、同銀行は破産に頻しているのか。

第二点 およそ銀行に預金するとき、払い戻し請求権確保のため、銀行から預金者に担保を提供する慣例があるとでもいう趣旨か

と述べた。その後検察官から

前回弁護人からなされた公訴棄却の申立の決定前に、検察官において、本件各背任罪の訴因につき、昭和四六年一一月八日付訴因変更請求書を提出したので、これに対する弁護人の意見を求めたうえで許否の決定をされたい

旨訴因変更請求(その内容は別紙(二)のとおり、以下第一訴因変更請求書という)および訴訟進行に関する意見の陳述があり、弁護人は、右第一訴因変更請求書記載の訴因に関し

「資金の管理運用等を阻害し」とは具体的にはどういう事実をさすのか

と釈明を求め、検察官はこれに対し

「管理を阻害し」とは次の事実を意味する。即ち、(1)組合の資金管理の本来のあり方としては県信連、農林中央金庫、地区内農協へできる限り預金することであるから、本件のように梶本良典ら非組合員の利益を図るような管理をしてはならないのである。(2)さらに、徳島相互銀行にした預金に関し法的な担保の提供はないが、梶本らに対する貸付金の回収が終るまで紳士的にこれを引き出さないということを約定したうえ預金しているのであつて(この意味で「見返り」という言葉を使用している)、このような預金をしたことは実質的にみて、被告人が組合資金の正常な管理方法をとらなかつたことになるのである。

次に「運用を阻害した」とは、右に述べたことも含まれるが、さらに、本件各組合は当時資金面において或いは枯渇し或いは決して裕福でなかつたのに無理をして預け替えをしたものであるうえ、県信連など農協関係の金融機関に預金すれば利息および融資面で優遇されるのにそのような優遇を無視して組合員の利益に反し徳島相互銀行へ通知預金したものであるから、そういう面において運用を阻害したという趣旨である

と釈明した。これに対し弁護人は

検察官は「管理運用を阻害し」という抽象的文言について前記の釈明をした訳であるが、右釈明はすべて任務に背いたということに外ならず、従つて検察官の右釈明によつても第一訴因変更請求書記載の訴因は「財産上の損害を加えた」という要件に該る具体的事実の主張を欠くので、結局何ら罪となるべき事実を包含していないことに帰し、本件各背任罪については公訴を棄却さるべきである。と述べ、また

第一訴因変更請求書記載の訴因には「見返り預金」という語句が使用されているが、これは法律用語ではない。一般に銀行から金を借りる場合担保の形として歩積みその他これに類する預金をさせられるようなことがあるが、本件各組合の預金はこの種のものではない。従つて、本件各預金は単なる保管替えというべく、その証拠に二〇日後には引き出しているのである。本件各預金をしたことが罪とならないことは常識的に考えても明らかである

と陳述した。これに対し検察官はさらに

本件各預金は形式的には保管替えであつても実質的観点からこれをみれば背任罪が成立する。なるほど、徳島相互銀行に預け入れた期間は、二〇〇万円については昭和四三年一二月一四日から昭和四五年一月七日までであり、六〇〇万円については昭和四三年一二月二七日から昭和四五年一月三〇日までの間であるが、このように預金が引き出されているのは預金が単なる「保管替え」であつたからというものではない。

と陳述した(なお、右年月日のうち、昭和四五年一月七日は昭和四四年一月七日の、また昭和四五年一月三〇日は昭和四四年一月三〇日の誤りであり、右は検察官が勘違いをして釈明したものと思われる。このことは第三回公判調書および後に提出された昭和四七年三月二二日付訴因の変更請求書等から明らかである)。裁判長は、検察官に対し

管理運用を阻害して「財産上の損害を加え」たという背任罪の構成要件としての損害の具体的事実関係はどうか

と釈明を求め、これに対し弁護人の方から

「管理運用を阻害し」とは任務違背であると釈明ではつきりしている。任務に背いて預け入れたのだから必ずしも財産の減少を生じなくとも危殆ならしめたということで、それ以外に損害のないことは判然としている。

との意見が述べられたが、検察官は

弁護人の意見のとおりである。しかしながら、(1)本件各預金は通知預金であるので最低一〇日は引き出せない。(2)徳島相互銀行の利息は通知預金では日歩八厘で県信連の利息より低利である。(3)国府町農協は預金高二億円、県信連への預金高二、〇〇〇万円であるが、これから六〇〇万円を引き出し預け替えしたことは資金量としては相当な額にあたり、年末でもあつて金融の切迫した時期であつた。農事放送農協の場合は、余裕金は月に一〇〇万ないし二〇〇万円で、そのうちから二〇〇万円を預け入れたものであるから、資金の枯渇を来すことは明らかであり、年末を控え金融の切迫した時期であつた。(4)二〇〇万円と六〇〇万円は、常時三、〇〇〇万円程度預金しておくということでその一部の履行として預けたものであつて、たとえ引き出すことができたとしても、常時三、〇〇〇万円程度預金しておかなければならないという条件があつた。以上、(1)ないし(4)のような状況下の預け替えが損害の実態である

と釈明した。さらに弁護人は、

通知預金であつたから現実に引き出すことができなかつたという事実があつたのか

と釈明を求め、検察官は

具体的に引き出すについて支障を生じたという事実はない

と釈明し、また裁判長からの

利息の損害額をあげるのか

という求釈明に対し

財産上の損害に含まれるという趣旨である

と釈明した。これに対し弁護人は

(1)  現実に金が必要となり高利な金を借りてきたというのであれば損害も生じようが、通知預金だからある日数は引き出せないとか利息が低利だとかいうだけでどのように損害を見積るのか。(2)検察官は利息が低利だというが、利息は普通預金が一番安く通知預金、定期預金と順次高利率となるので利息の損害は生じていない

と述べた。裁判長は、検察官に対し

預金の利息の点は状況を主張するのか、利息そのものが損害ということか。また、先程財産上の損害の点について弁護人の意見のとおりであると述べたが、それは特に損害として含まれるという趣旨か

と釈明を求め、検察官は

「財産上の損害」については、正常な運用をしなかつたということが財産上の損害ということである。運用が悪かつたとは何かというと、それは利息にも差異があるという趣旨である

と釈明した。

第五、一、第四回公判の経過

第四回公判(昭和四六年一一月二六日)においては、

裁判長は

弁護人の公訴棄却の申立は、その性質上裁判所の職権の発動を促す申立であると解されるところ、起訴状の本件各背任罪の訴因の記載は十全なものとは思われないが、刑事訴訟法三三九条一項二号にいわゆる「起訴状に記載された事実が真実であつても何らの罪となるべき事実を包含していないとき」とは、記載された事実自体からその事実が罪とならないことが明らかな場合をいい、罪となるかどうかにつき多少でも疑いがあるときは実体的審理を経たうえで有罪または無罪の判決をすべきものとされている。右立法趣旨に照らしてみると、本件について「財産上の損害」が発生したかどうかについては、検察官に訴因の補正をさせたうえ今後の実体的審理を経たうえ判決で判断すべき事項に属し、今直ちに公訴棄却をなすべきものとは認められない

として公訴棄却の決定をしないことを明らかにした。そして検察官の第一訴因変更請求書記載のとおり訴因変更を許可したところ、弁護人から訴因自体で損害の具体的事実と損害の額が明示されるべきであるとの意見が出されたので、裁判長は、改めて検察官に対し

本件における「財産上の損害」とは具体的にいかなる事実をもつて損害の発生であると主張されるのか、訴因の記載自体によつて明確にせられたい(損害額も明示すること)

と指示した。

二、以上が第四回公判の経過であるが、裁判所が検察官の第一訴因変更請求を許可したのは、当時裁判所としては右訴因変更請求によつて起訴状の訴因がある程度具体化されたことを認め、これを基本に争点が明確化されることを期待し、弁護人の公訴棄却の申立には職権を発動しない態度を明らかにし、他方検察官の第一訴因変更請求はこれを許可する態度を明らかにし、もつて、検察官をして訴因を補正させる方向で審理をすすめるという裁判所のその時点での方針を明らかにしたものであるけれども、第一訴因変更請求書記載の訴因について、審判の対象が十分具体的に特定されており、かつ、被告人の防禦に支障を及ぼさない程度に具体的に記載されていることまでも承認した訳ではないのである。即ち、第三回公判で陳述された第一訴因変更請求書記載の訴因は検察官が第一回公判において口頭でした補正の為の釈明ならびに第二回公判で陳述した昭和四六年九月一四日付釈明書を大筋においてふまえて作成されていることが認められるものの、財産上の損害の点については、いまだ明確であるとはいいがたい。しかも右第四回公判で弁護人は、この点の具体的事実が明らかにされない以上、訴因はいまだ特定したとはいえず、被告人にとつても防禦の方法がないと強く主張しているのである。

そこで、本件における財産上の損害とは具体的にいかなる事実をもつて損害の発生であると検察官において主張するのかを訴因の記載自体によつて明確にさせ、できれば損害額をも明示させることが必要であると考え、第四回公判の終りにその旨検察官に対し指示したものである。

第六、一、第五回公判の経過

第五回公判(昭和四七年一月二四日)においては、

検察官は冒頭に昭和四七年一月一二日付「訴因の補正申立書」(その内容は別紙(三)のとおり。以下第二訴因の補正申立書という)ならびに「訴因の補正に関する理由について」と題する書面に基づいて陳述したが、後者の内容は

本件は、徳島相互銀行が梶本良典に対し融資するにあたり、同人の提供する担保の不足を補うため右融資金完済までの間、被告人において常時三、〇〇〇万円以上の預金をすることによつて右梶本の担保不足分に代える旨の特約を結び、被告人は右約定に基づき本件の各預金をしたものである。従つて、梶本において右融資金の返済をしなかつた場合には本件預金により弁済を要求されてこの受け入れを迫られるため、まさに本件八〇〇万円の預金消失の危険を発生させ、組合財産を危殆ならしめたものというべく、かかる事実は組合資金の正常な管理運用等を阻害するものである。換言すれば本件においては、任務に背いて他人の利益を図り、本件の如く定款に違背し特約付の不法な預金をしたときは、それだけで預金の回収困難の危険の発生つまり組合財産を危殆ならしめたものと主張するものである。したがつて、本件の損害額としては、合計八〇〇万円であつて、その損害の態様としては、右八〇〇万円の消失の危険性を生じさせたというにある

というものである。そして検察官は裁判長の求釈明に答えて

(1)  右第二訴因の補正申立書中に「各預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせ」と記載してあるのは、未遂という意味ではなく、財産上の危険を生じさせたことによつて既遂になるという趣旨である。

(2)  同じく「各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して」という文章は「各預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせ」という文章と法的にいつて全く同じことを記載したものである。

(3)  検察官は、「預け替え」のような行為をもつて背任であると主張しているのである。言葉をかえていうと例の少い構成の仕方である。従つて、本件背任の公訴事実は一般の典型的な背任と異なりある程度詳細にしなければわからないので、同じことを重ねて記載してもぜい言であるとは考えない

と釈明したが、裁判長は

第二訴因の補正申立書記載の「右各預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせ」と「右各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して」とは用語としては必ずしも一致した概念であるとは考えられないが、検察官において右各記載の意味が両者同一であるというのであれば、今後の争点の明確化・審理促進の意味から「もつて右各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して」という文言を削除することがお互いの攻防を簡明にするゆえんと思う。そしてその手続は今までの経緯からみて訴因変更の手続によるのが妥当であると考える

として、右第二訴因の補正申立書中の「もつて右各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して」という文言を削除した訴因に変更することを命じるとともに、いわゆる「見返り預金の特約」という文言を今後とも主張する場合は、(1)本件特約の法律上の効果 (2)本件特約と財産上の損害との結びつき (3)本件特約の態様 (4)本件特約の当事者 (5)本件特約の終期および (6)見返り預金の性格をそれぞれ明らかにし、右事項についてはいずれも訴因に織り込んで訴因変更請求をするよう指示した。

二、以上が第五回公判の経過であるが、右公判において申し立てられた訴因の補正の内容およびこれに関する検察官の釈明内容は極めて重大な意味を有する。即ち、検察官は第一回ないし第三回公判においては、本件各背任罪の財産上の損害の内容は、前記第五の二でふれたように必ずしも明確ではないけれども、一応例えば年末を控え金融の切迫した時期に本件各預金をすれば資金の枯渇を来すことが明らかであるなどの状況下で本件各預金をしたことが即ち資金の正常な管理等を阻害したことに外ならないというもののようであるところ、検察官は第五回公判においては、従前の主張とは打つて変り財産上の損害の内容は、要するに、本件各預金の回収を困難ならしめる危険を生じたことである旨に主張を改め、さらに、第二訴因の補正申立書中の「各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して」という文言の意味は、右にいう預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせたということに外ならない旨釈明しているのであるが、右の新しい主張は検察官が第一回ないし第二回公判において「財産上の損害」の構成について努力を積み重ねた方向とは異なる方向へ訴因を構成しようと志向するものと言わざるを得ないのである。そして、新らしい訴因によれば、いわゆる「見返り預金の特約」の内容が特に重要な意味を帯びてくる(なぜなら、本件各預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせるか否かは、右特約の内容如何によることになるからである)。されば、裁判長は、検察官に対し、第五回公判の最後ごろに、いわゆる「見返り預金の特約」の具体的内容を訴因に織り込んで訴因変更請求をさせることが必要であると認めて、その旨の指示をしたのである。

第七、一、第六回公判の経過

第六回公判(昭和四七年三月八日)においては、

冒頭に検察官は昭和四七年二月二二日付「訴因の変更請求書(その内容は別紙(四)のとおり、以下第三訴因変更請求書という)記載のとおり訴因の変更を請求したが、「見返り預金」の特約の具体的内容が記載されていなかつたため、釈明を求められて、次のとおり述べた。

(1)  本件特約の態様は書面によるものではなく暗黙の了解によるものである。(2)右接渉の当事者は被告人と徳島相互銀行石井支店の預金係東明啓司である。この了解は同人から石井支店長を経て本店審査部長にまで通じている。(3)暗黙の了解の内容は、梶本良典に対し三、三〇〇万円を融資するからその資金全部が返済されるまで常時三、〇〇〇万円以上を預金しておくというもの。(4)この預金は「見返り」とする意味を持たせるもので、この見返りとは、検察官は、三、三〇〇万円の返済を確保するための担保的効力を有するものと解釈して主張するものである。なるほど、梶本が返済しない場合これをもつて弁済にあてる約束はなく、法律上銀行側に一方的な充当権はないし、銀行から弁済を求められた場合被告人側に拒否権がないということではない。しかしながら、約定にともなう事業上の効果として梶本良典が本融資金を弁済しない場合に被告人に弁済を求められても経済的取引の義理合い上、事実上これを拒否することができなくなるおそれがある。(5)なお、本件預金をその後引き出したのは右了解に違背して取り戻したのである。(6)第三訴因変更請求書記載の第一事実中「右国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し」とある部分は単なる情状としての余事記載ではなく構成要件事実の一つであるから削除しない

次に弁護人は

本件各預金の預け入れ期間を訴因中に明示されたい

など求め、検察官は

右に対しては検討する

と述べた。裁判長は

検察官は、背任の訴因について、本日の釈明に基づいて、釈明事項を織り込んだ訴因にまとめ、改めて訴因の変更請求書を提出されたい

と指示した。

二、右第六回公判の終りに裁判長が検察官に対して訴因変更に関する指示をしたゆえんは次のとおりである。即ち、裁判長は第五回公判の終りに検察官に対し、いわゆる「見返り預金」の特約を今後とも主張するのであれば、その特約の具体的内容を訴因の中に織り込んで記載し訴因変更請求をするよう指示したにも拘らず、第六回公判において陳述された第三訴因変更請求書記載の訴因にはいわゆる「見返り預金」の特約の具体的内容は記載されておらず、裁判長の前記指示に従つていないので、再度第六回公判期日において検察官が釈明した右特約に関する事項を訴因に織り込んで、改めて訴因変更請求書を提出するよう指示したものである。

第八、第七回公判の経過

第七回公判(昭和四七年一〇月三〇日)においては、

検察官は昭和四七年三月二二日付「訴因の変更請求書」(その内容は別紙(五)のとおり、以下第三訴因変更請求書という)記載のとおり訴因の変更を請求し、第三訴因変更請求書を撤回し、さらに弁護人の求釈明に対し

第四訴因変更請求書の二枚目表七行目に「了解のもとに前記任務に背き」と記載されているが右「前記任務に背き」とは、冒頭に「各組合長として各組合のため当該組合における資金の管理・運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務」と記載し、具体的には「定款に違背し、かつ、各組合員の意思に反し」と記載してある部分をさす

旨釈明した。

第九、一、第八回公判の経過

第八回公判(昭和四七年一二月二二日)においては、

弁護人は、昭和四七年一一月二〇日付「訴因変更に関し釈明その他の請求」と題する書面に基づいて

第四訴因変更請求書冒頭掲記の「各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務を有するものであるところ」とある部分は、背任罪の構成要件のうち「他人の為その事務を処理する者」にあたる記載であつて、「その任務に背き」の「任務」の記載とは違うのではないか

など求釈明するとともに、第四訴因変更請求書記載の訴因が第六回公判で釈明した事項を訴因中に記載しておらず、裁判長の指示に反していることなどを指摘した。

これに対し、検察官は、昭和四七年一二月四日付釈明書に基づき

「前記任務」とは公訴事実冒頭記載の「各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務」であり、「……に背き」とは、かかる任務(前記任務)を有するにもかかわらず、「国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し、かつ、右組合員の意思に反してその任務(前記任務)に背いた」といつているものである

と釈明し、昭和四七年一二月二二日付「訴因の変更請求書」(その内容は別紙(六)のとおり、以下第五訴因変更請求書という)記載のとおり訴因の変更を請求し、先に提出した第四訴因変更請求書を撤回する旨陳述した。

これに対し弁護人は

第五訴因変更請求書に対する意見は次回に述べたい

と申し出たので、裁判長は、検察官に対し

今回の訴因の変更については、従前からの度々の訴因変更請求をしている経過があるので、その際のそれぞれの訴因として主張すべき内容の変遷との関連において、さらに今回の変更請求をする根拠を説明できるよう準備されたい

と指示した。

二、裁判長が右第八回公判の終りに検察官に対して与えた指示の趣旨は、次のとおりである。即ち、第五訴因変更請求書記載の訴因には、(1)「誠実な資金の管理運用を阻害して」という文言が記載されているが、これは、文言の抽象性のゆえに多義的であつて、具体性明確性がなく、このことは第三回および第五回公判における検察官の同文言についての釈明が多義にわたり、その具体的内容の全く異なることを右同一文言によつて表示しようとしていることによつても明らかであり、しかも同文言は、第五回公判において裁判長から前示のとおり訴因の記載中より削除するよう命令され、第六、第七回公判で請求された第三、第四変更請求書記載の訴因においては、右裁判長の命令に従い削除されていた文言であつて、これが再び右裁判長の命令に反し第五訴因変更請求書記載の訴因の中に復活している。従つて、この点に関しては第二訴因の補正申立書の段階まで逆行しているのである。(2)いわゆる「見返り預金」の特約については、前記第七の二でふれたように裁判長の二度にわたる指示によつて漸く第四訴因変更請求書記載の訴因にその具体的内容の一部(例えば、「徳島相互銀行石井支店の東明啓司を介し」「右融資金額の弁済期である昭和四八年一二月三一日までの間」「口約し」「該約定にもとづく預金と従前の担保を合わせ、右融資返済を事実上担保する了解のもとに」など)が織り込まれるに至つたのに、第五訴因変更請求書記載の訴因では、右裁判長の指示に反し、右かぎ括孤内の各文言が全部削除されている。従つて、この点に関しては第三訴因変更請求書記載の訴因の段階まで進行している。(なお、右第三訴因変更請求書記載の訴因自体も裁判長の指示どおりに記載されていないことは、前記第七の二でふれたとおりである。)(3)第四訴因変更請求書記載の訴因中には、本件各預金が引き出された年月日を明示していたのに、第五訴因変更請求書記載の訴因では右年月日の記載が削除されている。(4)第五訴因変更請求書記載の訴因において、「任務違背」および「財産上の損害」の内容として新たに「前記国府町農事放送農業協同組合の利益のために、同組合の関連上部団体である徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金としてこれを運用すべき」「同組合の利益のために、徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金として預金すべき」「国府町農事放送農業協同組合の右徳島県信用農業協同組合連合会への定期預金に関する利益を喪失させ」「国府町農業協同組合の右定期預金に関する利益を喪失させ」という各部分が突如として主張されるに至つた。しかも、ここでは「定期預金として預金すべき」理由は全く明らかにされておらず、しかも、利息の点については、検察官は、第三回公判において、財産上の損害としては主張しないという趣旨の釈明をしていたのである。(5)同じく同訴因中には「国府町農業協同組合の組合員に対する貸付資金を減少させ」との記載があるが、この主張は、第三回公判において検察官がした釈明の中に若干あらわれてはいたが、それは本件各預金をしたこと自体が財産上の損害になるという特別の状況としての主張であつて、それ自体が損害であると主張していなかつたのに、ここでは、これを「財産上の損害」の具体的内容として、即ち、本件各預金をした結果貸付資金の減少を来した旨の構成で訴因に記載しているもので、かかる主張は今回が初めてである。(6)また、従前は、合計八〇〇万円の金員を引き出したのは本件各組合所有の普通預金からである旨主張していたのに、今回の訴因によれば、本件各組合所有の当座預金から右金員を引き出したという主張にかわつているが、これについても何らの説明もない。(7)さらに、今回の訴因中の「徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金として預金すべき」国府町農業協同組合の資金六〇〇万円を(右徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金として預金せず)徳島相互銀行石井支店に通知預金として預け入れたことにより「国府町農業協同組合の組合員に対する貸付資金を減少させ」た旨の主張は、記載文言からは、併立しえない関係にあるように思われる。なんとなれば、右徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金として預金すれば、定期預金の性質上、通知預金の場合以上に、組合員に対する貸付資金の減少を来すことになると考えられるからである。

以上要するに、右(1)ないし(3)の各点は第四訴因変更請求書記載の訴因より前の段階への逆行であり、また、(4)ないし(6)の各点は「任務違背行為」および「財産上の損害」の内容に関する新たな事実の主張であり、さらに、従前の公判の経過を離れて今回の訴因それ自体を検討しても、前記(1)の「誠実な資金の管理運用を阻害し」と(2)の「見返り預金」の特約の各文言は明確性に欠けるうえ、(7)で述べたように併立しえないと思われる主張も記載されているのであるから、検察官が第八回公判において第四訴因変更請求書を撤回し第五訴因変更請求書記載の訴因に変更すべく請求したことは、先に検察官が第五ないし第七回公判において第二訴因の補正申立書ならびに第三、第四訴因変更請求書と順次訴因の具体化明確化を図るべく努力を積み重ねた方向とは全体として異なる方向で訴因を構成しようとするものであるという外なく、このため第五ないし第七回の各公判において裁判所が検察官に対し訴因の具体化明確化をはからしめるためになした努力とその一応の成果とを水泡に帰せしめるものといわなければならない。従つて、第八回公判において検察官が敢えて第四訴因変更請求書を撤回し、第五訴因変更請求書記載の訴因に変更すべく請求するに至つたのはそれにふさわしい合理的必然性があつて然るべきものと考えられるので、裁判長は第八回公判の終りに前記のとおり新たに訴因変更する根拠を説明できるよう準備されたいと指示したものである。

第一〇、一、第九回公判の経過

第九回公判(昭和四八年二月二〇日)においては、

弁護人は、昭和四八年二月二〇日付「釈明請求書」に基づき、昭和四七年一二月二二日付「訴因の変更請求書」により変更請求された訴因に関し次のとおり陳述した。

第一点、「国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し」

と記載されているが、その根拠

第二点、「各組合員の意思に反し」と記載されているが、これは「各組合員全員の意思に反し」という意味か、

第三点、それとも「組合の機関決定による組合の意思に反し」という意味か

第四点、仮に後者だとすると、

(イ)、国府町農業協同組合の場合「組合の機関決定による組合の意思」に反している根拠

(ロ)、国府町農事放送農業協同組合の場合は、なるほど議会の決議中には徳島相互銀行へ預金してよいと決められてはいないが、この程度のことは、実質的にこれをみれば、背任罪にいわゆる任務違背にあたらないと考えるが、如何

さらに、弁護人は、昭和四八年二月二〇日付「検察官の訴因変更請求(昭和四七年一二月二二日付)に対する弁護人の意見」と題する書面に基づき次のとおり陳述した。

(1)、検察官の訴因変更請求は、昭和四七年一二月二二日付「訴因の変更請求書」で実に五回目である。(昭和四七年一月一二日付「訴因の補正申立書」もその実質は訴因変更請求である。)しかも、未だ実体審理に入らないうちにこのように多数回の訴因変更請求をしているのである。これは公訴権が弄ばれている典型である。

(2)、「資金の管理運用を阻害し」という文言は、第五回公判において裁判長から削除を命ぜられ、第三、第四訴因変更請求書中では削除されていた文言である。それが第五訴因変更請求書中で復活しているのである。

(3)、「見返り預金」という多義的な、法律用語でない俗語が相変わらず記載されている。検察官は、第六回公判において「見返り」の意義につき「経済的取引の義理合い」という釈明をし、裁判長から右釈明を織り込んだ訴因でもつて変更請求をするよう命ぜられているのである。

(4)、次に利息上の損害についてであるが、

(イ)、検察官は第三回公判において利息上の損害額を「財産上の損害」として主張するものではない旨釈明していたのに、第五訴因変更請求書中では、右釈明に反して、主張されている。

(ロ)、もともと県信連へ普通預金してあつたものを引き出して徳島相互銀行へ通知預金として預けたのであるから、利息上は却つて儲けになつているのである。

(ハ)、第五訴因変更請求書では、「定期預金として運用すべき」とか「定期預金として預金すべき」とか記載しているが、仮りにそのような「べき」が成立するとして、それなら定期にすべきことを何時からどう怠つたというのか

裁判長は、検察官に対し、弁護人提出の昭和四八年二月二〇日付「釈明請求書」第一ないし第四点について釈明を求めたところ、検察官は「釈明の必要ありません」と述べたが、重ねての裁判長の求釈明に対し次のとおり釈明した。

(1)、第一点については、徳島相互銀行は、定款五八条に指定する取引金融機関ではない。

(2)、第二点の「各組合員の意思」とは文字どおり各組合員の意思という意味である。

そこで、裁判長は、さらに、検察官に対し、

本件の訴因については従前からたびたび訴因変更請求をしている経過がある。その際それぞれの訴因変更請求をされるについては、検察官としては十分考えられて請求されたものと思うが、今回の訴因変更請求にはかなりの内容の変遷がある。しかも一部は弁護人の方で説明があつたように元へ戻るような訴因の記載がある。このような変更を請求する根拠について説明されたい

旨釈明を求めたところ、検察官は

なるほど検察官は従前訴因変更請求を何回か行なつておりますが、これはすべて訴因を明確にするという趣旨で行つたもので、昭和四七年一二月二二日付訴因変更請求書も同様です。検察官としては、これで訴因が明確化されたと考えています。

と述べたのみで、訴因の内容を変更する根拠については説明をしなかつた。

そこで裁判長は

今後この訴因はもう変更されないということですか

と確かめたところ、検察官は

はい、いたしません

と言明した。

これに対し、弁護人は

(1)、検察官の主張によれば、徳島相互銀行へ通知預金をしたことが即ち背任であるとのことであるが、徳島相互銀行が倒産寸前のものであれば、同銀行へ通知預金をしたことが背任罪になることは一目瞭然であるが、同銀行はレッキとした銀行なのである。

(2)、「管理運用を阻害し」という文言は抽象的文言であつて、裁判所が第五回公判において、検察官に対し右文言を削除した訴因変更を命じているところであるし、「見返り預金」という文言は意味のない多義的な言葉であつて、裁判所が第五回公判において釈明を求めた事項である。検察官としては訴訟上このように重大な事項については当然釈明に応じる義務がある。弁護人としては以上の二点について釈明して貰わねば防禦のしようがないのである。

と意見を述べた。

裁判長は、検察官に対し

第四訴因変更請求書と第五訴因変更請求書とは内容的にかなり違つている訳だが、変更請求されるに至つた経緯をもう少し具体的に説明される点はありませんか

と釈明を求めたところ、検察官は、

先程来弁護人らの求釈明がありましたが、検察官としては第四訴因変更請求書以降、弁護人から求釈明があり、それについて昭和四七年一二月四日付で釈明をしている。その釈明書の記載事実と第五訴因変更請求書の記載内容を対照していただけますなら、弁護人が主張しているように、防禦のしようがないということは到底考えられない。検察官としては訴因として十分特定していると思う。むしろ弁護人側の求釈明権の濫用と考えざるを得ない

と釈明した。これに対し、裁判長は

裁判所が聞きたいのは、検察官の言つたことと違つて、今までに例えば「管理運用を阻害する」ということの意味はどうであるとか、特約がどういうふうにしてなされたものであるとか、管理運用阻害と預金の回収困難とは同一語であるとかいろいろ釈明されてきた経過があるが、そういう今までの経過を全部前提とした上での書面ということになりますか

と釈明を求めたところ、検察官は

さようでございます。今までの経過の道をふみながら第五訴因変更請求書を作成しました

と釈明した。

次いで弁護人は、昭和四八年二月六日付「被告人の憲法上の権利保護につき裁判所の緊急決断を要請するの書面」を陳述し、本件は、背任罪の構成要件である「財産上の損害」も「任務違背」もない事案であるのにもかかわらず、検察官が公訴権を濫用して公訴を提起したばかりか、いまだ起訴状に対する認否もすまない冒頭手続の段階で検察官において訴因変更請求を濫発しているものであるから、被告人の権利保護のため速かに適切な決断をされることを要請する旨述べた。(なお、裁判長は、昭和四八年三月二〇日付「求意見書」でもつて、検察官に対し、右書面につき意見を求めたところ、昭和四八年三月二三日付をもつて、検察官から「意見なし」の回答があつた。)

二、以上が第九回公判の経過であるが、検察官は右公判において第五訴因変更請求書記載の訴因で、その明確化が達成されたとして、今後は右訴因の変更を請求することはない旨言明したので、裁判所としては、右訴因変更請求の許否につき判断すべきところ、右訴因変更請求は次の理由により許可しない。即ち、

(1)、第五訴因変更請求書記載の訴因中「資金の管理運用を阻害し」という文言はさきの裁判長の削除命令(前記第六の一参照)に反して再度訴因に盛り込まれたものであり、また「見返り預金」という文言については、検察官が第六回公判において釈明したところを訴因の中に織り込んで訴因変更請求をするようにという裁判長の指示(前記第七の一参照)に反し「見返り預金」の約定の具体的内容を訴因の中に織り込んでいないものである。

(2)、しかも、右「資金の管理運用を阻害し」という文言はそのままでは具体的内容は不明であり、しかも第五回公判における前示検察官の釈明によると、右文言は「預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせた」ということと同一の意味であると説明しておきながら、右危険発生に加えて、今回また前記管理運用阻害の語を復活そう入した意図が全く明らかにされていない。また「見返り預金」という文言についても第五訴因変更請求書中の訴因の記載のままではその具体的内容は依然明らかでない。

(3)、次に、第五訴因変更請求書記載の訴因の「財産上の損害」の構成方法をみると、前に検察官が第五回ないし第七回公判において目ざした訴因の構成方向とは異なり、一部には逆行した構成が他には新規の構成がみられるのである(前記第九の二参照)。これは第五回ないし第七回公判において裁判所が検察官に対し訴因の具体化明確化をはからしめるためになした努力を水泡に帰せしめんとするものにほかならない。

(4)、このように第五訴因変更請求書記載の訴因は、全体としては、従前の訴因とは構成の方向を異にし、従前の公判の経過を徒労に帰せしめるような訴因変更請求をするものであるのに、その合理的な理由を何ら誠実に釈明しようとせず、却つて、右請求書について、「今までの経過の道をふみながら請求書を作成しました」と強弁しているのである。かかる検察官の態度は前記(1)ないし(3)記載の点をも総合してみると、刑事訴訟規則一条二項の義務を全うするものとはいいがたい。

以上の次第で第五訴因変更請求を許可するのは相当でなく、したがつてこれを許可しないのであるが、しかるとき審判の対象として残るのは形式上は第一訴因変更請求書記載の訴因ということになる。(なんとなれば、第四訴因変更請求書による訴因変更請求は第八回公判において撤回され、第三訴因変更請求書による訴因変更請求は第七回公判において撒回され、第二訴因の補正申立書による補正の申立は、第五、第六回公判の経過および第三訴因変更請求書記載の訴因の内容に鑑みれば、第六回公判において第三訴因変更請求書による訴因変更請求がなされたとき黙示的に撤回されているのであるが、その直前の第一訴因変更請求書による訴因変更請求については、前記のような経緯で第四回公判において裁判所がその訴因変更を許可したものであり、その後これについて明示の取消しがなされないでそのまま残つているからである)。しかし、もともと右許可によつて同訴因の記載が十分なまで具体的かつ明確なものであることを裁判所が認めたというものでないことはさきに第五の二で説明したところであるし、また検察官が第五回公判において第二訴因の補正申立書に基づいて第一訴因変更請求書記載の訴因を補正せんとして「財産上の損害」の構成方法につき方針の転換を試みた(前記第六の一、二参照)後、第三、第四訴因変更請求書による各訴因変更請求によつて、第二訴因の補正申立書の線に沿つて、訴因の具体化明確化のための補正が積み重ねられたことが明らかであるから、右経過に鑑みれば、もはや第一訴因変更請求書記載の訴因をもつて審判の対象とし、これに基づいて実体審理に進むことはできない。即ち、第一訴因変更請求書による訴因変更請求は起訴状記載の訴因の内容を具体化明確化させるための補正の手段として、手続上訴因変更請求の形式をとつたものではあるけれども、甲の訴因をこれと別個の乙の訴因に変更するが如き本来の意味の訴因変更手続ではない。したがつて、その訴因変更請求を許可したのも、実質はその補正の意思表示を確認したに止まるものにすぎないものであり、しかもその後検察官が数次にわたつてこれを別の方向に補正すべく意思表示を(第二次以下の数次の補正の申立もしくは訴因変更請求の形で)行つている以上、検察官としても第一訴因変更請求書に基づく訴因変更によつて補正された訴因内容で訴訟を追行する意思はすでにないものと認められ、第一訴因変更請求書記載の訴因は今までの公判の経過として現われたものではあるけれども、公判の進展に伴いすでに形骸化し無意味な存在となつてしまつているものである。そこで念のため右第一訴因変更請求書記載の訴因に変更することを許可した決定はこれを取り消しておくこととする。

かくして、いまや当初の起訴状記載の訴因にまでさかのぼり、公訴の手続そのものの効力までこれを改めて検討せざるを得ないわけであるが、本件は典型的な背任罪の構成要件からみれば、甚だ微妙な事案であり、それだけに訴因の特定には困難が伴うけれども、具体的事実を記載することによつて、いかなる点に任務違背があり、いかなる行為によつていかなる損害の発生を招いたのかを明確にして、審判の対象としての具体性を具備させ、被告人の防禦権行使が可能な程度に特定しなければならない。しかるに、起訴状記載の訴因は何をもつて任務違背行為であるとするのかその記載自体からは明らかでなく、さらに損害の発生とは何をもつていうのかにいたつては具体的事実は全く記載されておらず、このままでは審判の対象としての特定に重大な疑問があり、被告人の防禦権行使の実効を期し得ないというほかなかつたが、検察官が本件冒頭で釈明に応じて訴因を具体化し明確化しようという態度を示したので、当裁判所も訴訟経済の観点から訴因の具体化明確化を求めたのであるが、数回の公判を経ても、前記のようにいたずらに無駄な曲折を経たのみで、しかも第九回公判では検察官は具体化明確化のための従前の経過を全く無視した前記第五訴因変更請求書により訴因変更請求をするに至つたものでかかる態度は、訴訟上の権利の誠実な行使であるとは認めがたいので、もはやこれ以上公判を重ねても、ついに、起訴状記載の訴因を審判の対象として具体性を有し、被告人の防禦権の行使が可能な程度に特定したものとして扱うことは不可能というほかはない。されば本件訴因は結局特定しないものといわざるを得ず(最高裁昭和三三年一月二三日判決参照)、公訴提起の手続がその規定に違反し無効であるものとして、公訴を棄却すべきものである。

よつて、刑事訴訟法三三八条四号により主文のとおり判決する。

(野間禮二 大山貞雄 重吉孝一郎)

別紙(一)

起訴状記載の公訴事実

被告人は、徳島県国府町農業協同組合(昭和四四年四月一日以降は合併により徳島市農業協同組合となる)および国府町農事放送農業協同組合の各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理、運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務を有するものであるところ

第一、福本幸雄と共謀のうえ梶本良典らの利益を図る目的をもつてその任務に背き

一、昭和四三年一二月一四日ころ徳島市国府町府中所在の国府町農業協同組合において、前記国府町農事放送農業協同組合所有の普通預金から計二〇〇万円を引き出し、これをそのころ徳島県名西郡石井町所在の徳島相互銀行石井支店において通知預金として預け入れ

二、同年同月二七日前記国府町農業協同組合において、同農業協同組合所有の普通預金から六〇〇万円を引き出し、これをそのころ前記徳島相互銀行石井支店において通知預金として預け入れ

もつて前記各組合にそれぞれ財産上の損害を負わしめたものである。

別紙(二)

第一訴因変更請求書に記載された訴因

第一、かねて知り合いのパチンコ遊技場「ニューオデオン商事」の支配人梶本良典において、右パチンコ遊技場の買収資金として三、三〇〇万円の融資方を徳島相互銀行に申し入れたところ、同銀行は、同人の担保不足とその返済見通しに疑問を持ち、右借り入れの実現が困難であつたため、同人および福本幸雄から右融資に協力方を依頼され、右福本と共謀のうえ、右各組合員でない右梶本らの利益を図る目的をもつて右国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し、かつ右各組合員の意思に反して徳島相互銀行に対し、同銀行が梶本に右金額を融資する見返り預金として常時少なくとも三、〇〇〇万円を預金する旨約定し、該約定にもとづき、前記任務に背き

一、昭和四三年一二月一四日ころ、徳島市国府町府中所在の国府町農業協同組合において、前記国府町農業放送農業協同組合所有の普通預金から合計二〇〇万円を引き出し、これをそのころ、徳島県名西郡石井町所在の徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で通知預金として預け入れ

二、同年同月二七日ころ、前記国府町農業協同組合において、同農業協同組合所有の普通預金から六〇〇万円を引き出し、これをそのころ、前記徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で通知預金として預け入れ

もつて、右各組合の正常な資金の管理運用等を阻害して財産上の損害を加えたものである。

別紙(三)

第二訴因の補正申立書の記載

第一訴因変更請求書の記載中、末尾の「もつて」以下の部分につき「それぞれ右各預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせ、もつて右各組合の正常な資金の管理、運用等を阻害して財産上の損害を加えたものである。」と補正する。

別紙(四)

第三訴因変更請求書に記載された訴因

被告人は、徳島県国府町農業協同組合(昭和四四年四月一日以降は合併により徳島市農業協同組合となる)および国府町農事放送農業協同組合の各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理、運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務を有するものであるところ

第一、かねて知り合いのパチンコ遊技場「ニューオデオン商事」の支配人梶本良典において、右パチンコ遊技場の買収資金として三、三〇〇万円の融資方を徳島相互銀行に申し入れたところ、同銀行は、同人の担保不足とその返済見通しに疑問を持ち、右借り入れの実現が困難であつたため、同人および福本幸雄から右融資に協力方を依頼され、右福本と共謀のうえ、右各組合員でない右梶本らの利益を図る目的をもつて、右国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し、かつ、右各組合員の意思に反して徳島相互銀行に対し、同銀行が梶本に右金額を融資する見返り預金として常時少なくとも、三、〇〇〇万円を預金する旨約定し、該約定にもとづき、前記任務に背き

一、昭和四三年一二月一四日ころ、徳島市国府町府中所在の国府町農業協同組合において、前記国府町農事放送農業協同組合所有の普通預金から合計二〇〇万円を引き出し、これをそのころ、徳島県名西郡石井町所在の徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で通知預金として預け入れ

二、同年同月二七日ころ、前記国府町農業協同組合において、同農業協同組合所有の普通預金から六〇〇万円を引き出し、これをそのころ、前記徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で通知預金として預け入れ

もつて、それぞれ、右各組合預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせて財産上の損害を与えたものである。

別紙(五)

第四訴因変更請求書に記載された訴因

被告人は、徳島県国府町農業協同組合(昭和四四年四月一日以降は合併により徳島市農業協同組合となる)および国府町農事放送農業協同組合の各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理、運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務を有するものであるところ、

第一、かねて知り合いのパチンコ遊技場「ニューオデオン商事」の支配人梶本良典において、右パチンコ遊技場の買収資金として三、三〇〇万円の融資方を徳島相互銀行に申し入れたところ、同銀行は、同人の担保不足とその返済見通しに疑問を持ち、右借り入れの実現が困難であつたため、同人および福本幸雄から右融資に協力方を依頼され、右福本と共謀のうえ、右各組合員でない右梶本らの利益を図る目的をもつて、右国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し、かつ、右各組合員の意思に反して徳島相互銀行石井支店の東明啓司を介し同銀行に対し、同銀行が梶本に右金額を融資する見返り預金として右融資金額の弁済期である昭和四八年一二月三一日までの間常時少なくとも三、〇〇〇万円を預金する旨口約し、該約定にもとづく預金と従前の担保を合せ、右融資返済を事実上担保する了解のもとに前記任務に背き

一、昭和四三年一二月一四日ころ、徳島市国府町府中所在の国府町農業協同組合において、前記国府町農事放送農業協同組合所有の普通預金から合計二〇〇万円を引き出し、これをそのころ、徳島県名西郡石井町所在の徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で同四四年一月七日まで通知預金として預け入れ

二、同四三年一二月二七日ころ、前記国府町農業協同組合において、同農業協同組合が徳島県信用農業組合連合会に預金として所有する普通預金から六〇〇万円を引き出し、これをそのころ、前記徳島相互銀行石井支店において、右組合名義で同四四年一月三〇日まで通知預金として預け入れ

もつて、それぞれ、右各組合預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせて財産上の損害を加えたものである。

別紙(六)

第五訴因変更請求書に記載された訴因

被告人は、徳島県国府町農業協同組合(昭和四四年四月一日以降は合併により徳島市農業協同組合となる)および国府町農事放送農業協同組合の各組合長として右各組合のため当該組合における資金の管理、運用その他の事務全般を管掌し、組合の目的遂行のため誠実にこれを処理する任務を有するものであるところ、

第一、かねて知り合いのパチンコ遊技場「ニューオデオン商事」の支配人梶本良典において、右パチンコ遊技場の買収資金として三、三〇〇万円の融資方を徳島相互銀行に申し入れたところ、同銀行が、同人の担保不足とその返済見通しに疑問を持ち、右借り入れの実現が困難であつたため、同人および福本幸雄から右融資に協力方を依頼され、右福本と共謀のうえ、右各組合員でない右梶本らの利益を図る目的をもつて、右国府町農事放送農業協同組合の定款に違背し、かつ、右各組合員の意思に反して徳島相互銀行に対し、同銀行が梶本に右金額を融資する見返り預金として常時少くとも三、〇〇〇万円を預金する旨約定し、該約定にもとづき、前記任務に背き

一、昭和四三年一二月一四日ころ、徳島市国府町府中所在の国府町農業協同組合において、前記国府町農事放送農業協同組合の利益のために、同組合の関連上部団体である徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金としてこれを運用すべき、国府町農事放送農業協同組合の資金二〇〇万円を前記見返り預金として流用するため、そのころ、これを徳島県信用農業協同組合連合会の当座預金から引き出し、徳島県名西郡石井町所在の徳島相互銀行石井支店において、国府町農事放送農業協同組合名義で、右梶本らの利益のために通知預金として預け入れ

二、同年同月二七日ころ、前記国府町農業協同組合において、同組合の利益のために、徳島県信用農業協同組合連合会へ定期預金として預金すべき、国府町農業協同組合の資金六〇〇万円を右見返り預金として流用するため、同組合の徳島県信用農業協同組合連合会に対する当座預金として残置し、そのころ、これを右預金から引き出し、右徳島相互銀行石井支店において、国府町農業協同組合名義で、右梶本らの利益のために通知預金として預け入れ

もつて、それぞれ前記誠実な資金の管理、運用を阻害して右各組合預金の回収を困難ならしめる危険を生じさせ、かつ、右見返り預金として流用したことにより国府町農事放送農業協同組合の右徳島県信用農業協同組合連合会への定期預金に関する利益を喪失させるとともに、国府町農業協同組合の組合員に対する貸付資金を減少させ、または、国府町農業協同組合の右定期預金に関する利益を喪失させて財産上の損害を加えたものである。

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